国内自動車メーカーが販売網の効率化を急いでいる。ホンダは3月に、三つある販売系列を一本化し、日産自動車も7月から販売会社の一部の機能を本社直轄にする。人口減少社会が始まり、市場拡大が見込めない国内で利益を出すには、店舗の統廃合などを通じ、販売コストを抑えることが急務と考えているようだ。効率化についていけない販売会社に退出を迫ることになり、生き残りを懸けた厳しい競争が本格化しそうだ。【山本明彦】
東京都江戸川区にある日産自動車の販売店。05年3月の改装で駐車場を立体式にし、あいた空間を活用して、新車の展示スペースを2台分から5台分に広げた。店舗の効率を極限まで上げて、収益を高めるための取り組みだ。
日産が始めるのは、「利益を最大限に上げるための資産管理」(戸井田和彦常務)。142社ある販売会社のうち、日産が全額出資している52社を、資産管理会社と販売事業会社に分割。販社の4000億円規模の土地建物などは資産管理会社に移す。
各事業会社は資産管理会社に店舗リース料(家賃)を払う形になるため、店舗運営の効率化を迫られる。資産管理を行う日産本体は、店舗が重複している地域での統廃合や成長地域への新設などの再編を進める。販社経営に緊張感が生まれ、地域の有力者らが大株主となっている販社に対しても、効率化を促す効果を期待している。
◆消える複数系列
ホンダは06年3月に、現在三つある販売系列を一本化し、すべての店舗で全車種の販売を始める。日産も05年4月から、2系列で全車種販売に踏み切っている。これに対し、業界首位で販売車種も圧倒的に多く、販社に経営体力もあるトヨタ自動車は、今のところ複数系列を維持する構えだ。
日本の自動車メーカーは複数の販売系列に違う車種を販売させ、消費者の好みの多様化に対応してきた。しかし、市場の伸び悩みで、分業制を続ける余力がなくなった。系列を集約し、「店舗が重複する地域で効率化を進め、販売網の手薄な都市部を強化する」(ホンダの西前学・執行役員)といった機動的な戦略が、今後は収益の明暗を分ける要素になる。
ただ、車種による「すみ分け」がなくなると、店舗が重なる地域では値引き競争を招きかねない。「体力のない販社に退出を促すのと同じ」(大手メーカー役員)との指摘も聞かれる。
◆差別化の努力も
同じ日産系内での競争に備え、「神奈川日産自動車」は04年10月、整備士向けの研修制度を導入した。最新技術の学習以外に、修理した内容を顧客に分かりやすく説明するための講習を加えたのが特徴だ。1人当たり数十万円の費用がかかるが、酒井信也社長は「整備士の質を高めることで他店舗との差別化を図る」と話す。
トヨタの「レクサスのように、高級ブランドは別格にして売る動きが広がっていることも、系列統合の背景にある。ホンダは08年秋に高級車ブランド「アキュラ」を国内に導入、日産も「インフィニティ」の展開を検討している。高級車の販売は利益率が高いが、市場全体が頭打ちとなる中で、「大衆車」を扱う販売系列の収益を圧迫しかねない。販社の体力が落ちれば、販売の落ち込みや、販社を支えるための販売奨励金の増額などの形でメーカーにも跳ね返ってくるため、販売網の効率化が待ったなしの課題になっている。
(毎日新聞) – 1月7日19時23分更新
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